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Good Morning Yukon Vol.2 : Smell of The Beast

前回の旅から2年後の2005年8月、写真家・宮澤聡は再びカナダのバンクーバーに降り立った。19日間をかけて壮大なYukon Riverを下るために。

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 White Riverとは名前の通り、真っ白に濁った川である。ここから先はYukon River自体も白濁してしまい、全く透明感がなくなってしまう。今までは川の水を濾過して飲み水を調達してきたが、このWhite Riverから先、ぼくたちの濾過機では濾過は不可能な状態で、飲み水が調達できない。

 そのWhite Riverの河口のところにキャンプ地があり、その上の山から小さな川が流れ込んでいる。その川の水を積めるだけ積んで残りの旅に出る。この旅も残り2泊3日となった。文字通りここがYukon River trip最後の水調達場である。今夜はここで1泊する。割と早くこのキャンプ地に着いたぼくらは、各々の過ごし方をしていた。本を読んだり、コーヒーを飲んだり。一応、僕は魚釣りを試みた。こんな濁った川で魚なんか釣れるわけがないと思いながらも釣り糸を投げてみたが、やはりうんともすんとも言わない。

 釣りにも読書にも飽きたぼくたちは、ちょっと探検することにした。キャンプ地の奥には、いくつもの獣道が森の中に流れていた。いつもはあまりキャンプ地の奥へは行かないのだが、獣道が森の奥から山の方に進んでいたので、もしかするとWhite Riverを上から見下ろすことができたら、Yukon RiverとWhite Riverの境目の全貌がはっきり見えると思った。このキャンプ地に入る手前でWhite RiverがYukon Riverに流れ込んでいるところを進んでいたとき、あまりにもYukon RiverとWhite Riverのはっきりとした色の境目にびっくりしたのだった。そのぐらいWhite Riverは、まるで白い乳液を垂らしたような驚きの白さをしていた。


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 今までそれほど奥まで探検をしてこなかったの原因は、やはり熊だ。Yukonには多くのグリズリーが住んでいる。もし遭遇してしまったら、と考えるとなかなか探検するには勇気が必要だった。キャンプ地を決めるときでさえ、上陸し、熊の痕跡がないかチェックをし、もし痕跡が見つかったら、また別のキャンプ地に移動するようにしてきたのだから、あえて森の奥に行く行動は避けてきた。そんなことを少し考えながらも、天気は夏の日差しが降り注いでいたし、気温も高かったのでたぶんハイキングには気持ちいいだろうと思い、獣道へと足を踏み出した。そして僕たちは森の中を進む。森の中はシーンとしていて僕たちの足音しか聞こえない。空気もひんやりしていて少し肌寒かった。そして森が途切れると、太陽の暑いシャワーが降り注ぎ、背丈ほどのある草むらが生い茂っていた。

 暑いな〜! 今日はいい天気だな! ハイキングだ。そしてぼくは、ちょっとおしっこがしたくなってしまった。Seiji! ちょっとどこかでトイレしてくるわ! 先に行っててくれ!

 と、獣道からちょっと外れておしっこをしようとしたその時、ぼくの鼻の中に強烈な臭いが突き刺さって来た。うわ〜! 臭っさ!! あまりにも強烈な臭いだ! 何だこれは? 獣の臭いだ! ものすごい野生の臭いがした。気が気ではなくなった。辺りを見回しながら早くおしっこを済ませないと、こんな状況の中で熊やオオカミに出くわしたら襲われて終わりだ!
 早々とおしっこを済ませ道に戻った。辺りを見回したが獣の気配はなかった。たぶん動物のおしっこの臭いだろう。なんだ? ムースか? それとも熊か? とにかく強烈だった。すぐさま足下を見て足跡を探した。あった! 足跡だ! なんだこれは? サイズはそんなに大きくないが、爪の跡があるような、ないような......足跡がすこしぼけててよくわからなかった。そしてSeijiに追い付こうと先を急いだ。しかし追い付こうと登って行く先から、またあの獣臭が臭ってきた。また臭いな! どこかにいるのか? 背丈ほどある草むらの中を歩いているぼくには、草むらの中に潜んでいたとしてもまったくわからない。用心しながら先を急いだ。この獣道自体が獣臭を出しているように臭かった。

 そして、草むらが途切れたところでSeijiが待っていて、案の定そこからWhite Riverが見下ろすことができた。


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 お〜! なかなか絶景ですな〜! 左から入って来るYukon Riverと右から合流するWhite Riverが絶妙に混ざらずに、ビシッとお互いの主張をしながらガチにぶつかりあって、境界線ができあがっていた。がしかし、少しWhite Riverの方が優勢といったところか! そして合流地点から先を見るとYukon RiverはWhite Riverに完全に飲み込まれ、日にちが経ったシチューのような状態の川がつくりだされていた。確かにこれでは飲み水をこの川からつくり出すなんて無理だと思った。

 お〜! さっき、凄い獣臭がしただろ? と尋ねると、動物のおしっことかじゃねえの? 熊とかかな? いや!それはないんじゃない! 足跡とかなかったし! せめてうんこでも落ちてれば、見極めがつくのだがそれも見当たらなかったし、確実に熊ではないとは言えないけど、熊であるとも言えない。そんな状況下でここで1泊。夜になると恐怖心が増すね〜!

 帰り道は少し別の獣道で帰ってみることにした。そこに熊の痕跡でもあれば、とっとと飲み水を積んで移動するのみだが、しかし残念ながら痕跡は発見できなかった。だからそのままここに一泊、ということになった訳だけど、これがちょっとした恐怖の夜を体験することとなるのだった。日暮れを迎えてだんだん気温が落ちてきた。そして日が完全に暮れるとさらに急激に落ちてきた。寒! いや〜、本当寒い! なんか冷たい風が森の奥から吹きつけてくる。このキャンプ地は谷になっていて、山からの風が沢を降りて急激に吹きつけてくる場所だった。たき火を焚いても風が強くて消えそうになる。夕ご飯をつくっている間も寒くて仕方がない。

 とにかく、この風をブロックしなくてはどうしようもない。タープ代わりに持ってきたブルーシートでファイアーピットとその周り囲むように壁をつくった。しかし、そこまで大きくないシートは十分な大きさではなく、壁と言っても腰ぐらいの高さにしかならず完全にブロックができなかった。あのさ〜、あんまり変わんなくない? 仕方がないだろ! これしかないんだし! 何もしないよりかはマシだと思うけど、時間が経つとあっても、なくても変わらないと思えるぐらい寒かったが、テントに入る訳にはいかなかった。なぜなら、さっきから山の方から何かの遠声が聞こえてくるからだ。それも1匹や2匹ではない声だ。熊ではないのはわかったが何の声かよくわからなかった。

 オオカミか? そんな感じに聞こえなくもない! ただ、まだかなり遠い。もしそうなると火を絶やすわけにはいかない。ということはテントには入れない。ということは、むちゃくちゃ寒い。もう最悪だった。マジ寒い! 火の周りにいるのはもちろんだがスコッチの紅茶割りを飲んだり、それでもじっとしていられないので時々立ち上がっては運動したり、寒さに抵抗して時間が過ぎるのをまった。そして深夜になり、Seijiが折れ、もう寝るわ! と言ってテントに入って行った。確かにオオカミ(?)の声はあまり聞こえなくなったけど、よく寝れるな〜と感心した。

 残された僕は、1人で薪をくべてとにかく火を絶やさないようにと頑張っていた。1頭の中でシュミレーションをした。もしオオカミが近くまで下りてきたら映画で登場するワンシーンのように火のついた太い薪を持って、オオカミの顔に向かって突き出す。こら! やれるもんなら、やってみろ! と松明で攻撃するんだ。実際そんな攻撃に効果があるのかはしらないけど、もし本当に近くまでオオカミがきたらそれしかできない気がしたし、他には何も思い浮かばなかった。

 夜の帷が深くなり、朝まで起きているのは寒すぎるし、とにかく眠い! 遠吠えもだいぶ聞こえなくなったし、とにかくたくさんの薪をくべて寝ることにした。オオカミと戦うシュミレーションをしていたぼくだが、寒さと眠たさには勝つことができなかった。ぼくの恐怖の夜はこうして幕を閉じた。


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 どのくらい時間がすぎたのだろう。目の中が明るかった。朝になっていた。オオカミの襲撃に遭うことなく無事に朝を迎えた。テントの外に出ると、すでにSeijiはコーヒーを飲んでいた。昨日の夜のことなどなかったかのようないい天気が訪れていた。本当にオオカミだったのかどうか、今さら検証できるわけでもない。しかし僕の中ではあれはオオカミだったのではないか、と未だに信じている。そしてぼくたちは、2つのカヤックに積めるだけいっぱいの水を積んで真っ白い乳液の真っただ中に漕ぎ出した。

 残り少ないこの旅に、この先何が待ち受けているのか分からないがゴールはすぐ目の前に迫っている。そして最後に僕らは、Yukonから素晴らしい贈り物をもらうことになるのである。









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