Interview #00 Kakazu
カカズ × 河原里美
Photograph by Masayuki Furukawa
Text by Kazuki Hoshino
東京に住む女性モデルたちを撮る、ヘアスタイリスト・河原里美によるポートレイト連載企画に加え、今回は被写体のモデル・カカズへのインタビューを掲載。モデルとしてヴィジュアルを表現する彼女の、心の内面とは。
カカズ この間は撮影ありがとうございました!
河原 こちらこそありがとうございます。今回お願いしたポートレートシリーズは、東京に住んでいてモデルの女の子の日常に近い、素の女性性や人間性を撮りたいと思ってはじめた企画なんです。 だからスタイリストは入れずに、モデルさんの実際の私物の服や靴を使って、シンプルなヘアーとメイクで演出するという手法をあえてお願いしています。 私服でお願いして、緊張しました?
カカズ はい。私服は初めてだったので、聞いたときは正直、大丈夫かなと思いました(笑)。
河原 これまで、洋服をたくさん持ってきていただく場合が多かったです。屋外ロケなので、上着をチェンジするぐらいしかできないのですが。
カカズ 私も心配で荷物パンパンで来てしまいました(笑)。
河原 私はヘアを、メイクをセパレートでやっているので、作りこまなくてはいけないという固定観念がこれまでずっとあったのですが、モデルさんの人の内面を引き出せるような、引き算のヘアとメイクをできないかと思ったのが、今回の企画のきっかけなんです。
カカズ 河原さんはどうでしたか?
河原 カカズさんは初対面でもぱっと心を開いて来てくれたので、私たちが思っていた以上によい撮影になりました。私服でお願いしているせいか、普段の現場でできないような話ができたのが印象的でしたね。今回のシリーズは、いつも本当に勉強になるんです。私がカカズさんぐらいの歳の時、こんなに考えて仕事をしていたかなと。カカズさんはおいくつでしたっけ?
カカズ 25歳です。
河原 私たちの仕事は、30歳を超えてキャリアを重ねるほど、経験も増して仕事も大きくなっていく。でもモデルの多くは20〜30代に仕事のピークを迎えるわけじゃないですか。
カカズ 言われて見ればそうですね。初めて意識しました。
河原 だから年齢以上に、みんなしっかりしている。話しててはっとさせられることが多いです。
カカズ 実は私24歳でモデルをはじめたんです。モデルとしては遅い方です。その前は日本女子体育大学で、剣道をやっていました。
河原 見えないです。体育大学だったらかなり強かったでしょう。
カカズ いえいえまだ4段です。
河原 えっ、コント赤信号のリーダーと一緒じゃないですか。かなりですよね?!
カカズ 母が道場をやっていたので、小さい頃からやっていました。でも軽いので倒されることが多いです。 力がなくてバシっと決まらなかったり。
河原 すごい。何かあっても護身できますね。
カカズ 木刀だと死んでしまうし竹刀だと割れてしまうので、カーボンの竹刀を枕元に置きなさいって母に言われてました。
河原 武士ですか(笑)。でも剣道は、姿勢とか集中力とか、モデルの仕事に確実に通じますよね。
カカズ 心の面ではすごくいいと思いますね。精神面に無意識につながっていると思います。あとは負けず嫌いなところもいいのか悪いのか。くやしいと泣いてしまうんですけど。誰にも負けたくないとか、実はちょっと思ってたり(笑)。
河原 でも剣道をやっていて、モデルって珍しいですよね。 きっかけは何だったんですか?
カカズ 23歳の時に東京コレクションで、『エトヴァスヴォネゲ』というブランドの応募に受かったのが、具体的なスタートですね。たまたま友達に「応募しなよ」と言われ、「はぁ」という感じで。 今でも自分がモデルをやってることが不思議な瞬間があります。
河原 周りに押されてきたみたいな。面白いですね。
カカズ でもやっぱり本腰を入れてやろうと決めて、今の事務所に入れてもらったんです。私はすごく運が良くて、入ってすぐに雑誌の仕事をいただきました。実はあまり実感がわかないまま時が経っていたのですが、ハッと気づかされたのが、去年の9月に母が亡くなったタイミングだったんです。
河原 そうだったんですね。
カカズ 本当に周りの人に感謝してますし、親にもらったものをどう磨き上げるかは、これからの自分の力なんだと思っています。
河原 剣道をやってた頃からいろんな流れに乗ってモデルをはじめて、最初のイメージと違ったことはありますか?
カカズ やる前は何もわかりませんから、見た目だけが勝負の世界だと思ってました。でも実は違った。
河原 なるほど。
カカズ 自分の意識の持ち方で写り方がぜんぜん違う。何も考えないで撮られていた最初の時と、最近の写真は大きく変わってきています。 出るんですね、心が表情に。心のコントロールが大事なんだと思います。私の場合は、ポージングをパキパキやるというより、自然体を求められることが多いのでなおさらかもしれません。
河原 奥から出てくるニュアンスを表現するのも難しいですよね。
カカズ 昔は割とメイクをする方だったので、スッピンの撮影が多いのも衝撃でした。だからコンディションを常に整えないといけない。
河原 メイクでアップされるようなタイプと、カカズさんみたいに、たとえばソバカスのような人間っぽさを活かしたほうが可愛いタイプもいます。普段から食べ物は気をつけているんですか?
カカズ 菓子類は普段からあまり食べないので、その代わりにフルーツを食べています。あとは料理好きなので、なるべく自炊するようにしていますね。
河原 サプリメントは摂らないんですか?
カカズ 摂らないです。錠剤になってるものは薬に見えちゃいますね。最近はトマトにハマってますよ。トマトのリコピンが肌にいいので、オイルもリコピン配合のものを。化粧品はオーガニックを使うようにしています。
河原 忙しいからこそ、生活に気を使うということですね。
カカズ 両親にいつも「当たり前のことができない人は、すごいこともできない」と言われていました。早起きもすること、本を読むこと、花を見てキレイだと思うこと、三食きちんと食べること。とか、日常のごく当たり前のことをきちんとしていきたいですね。仕事も日常の一部ですし。
河原 丁寧に感じて、毎日を大事に生きていくことですね。ところで、カカズさんが影響を受けたアーティストはいますか?
カカズ 今通ってる美容室がすごく変わっていて、休みの日に落語とか、ライブペインティングとかイベントをやっているんです。この間は岡本亮さんという画家が絵を描いて、宮内優里さんというミュージシャンが音を奏でてヘアカットをやるというイベントに行ったんですけど「こんなに輝いてる人は見たことない」と思ってしまうぐらい素晴らしかった。「一生懸命生きてるな、この人たち」と涙が出そうになりました。そう思える人に出会ったことがなかったので、衝撃を受けましたね。
河原 それでは理想の女性像はどのような人なんでしょう。
カカズ 笑顔が素敵な人ですね。具体的には今井美樹さんです。
河原 デビューしたての時のCMだと思うんですが、くしゃくしゃの笑顔が太陽みたいで可愛かった。
カカズ '86年の井筒和幸監督の『犬死にせしもの』という映画に今井さんが出演してたんです。27年前と今の今井美樹さんは全然違うけど、それぞれに魅力的なんです。私は24歳でモデルをはじめたので、周りのニューカマーの人は10代の人も多いんです。勝てない部分もあるけど、今井美樹さんを見るとそうじゃないなと。いつの時代もそれぞれの美しさや魅力を出している今井さんのように、私もなりたい。憧れですね。
カカズ Kakazu
モデル。『装苑』、『ku:nel』、『リンネル』、『天然生活』などの雑誌のほか、TVCMやWEB、コレクションにて活動中。趣味は韓国語、英語。剣道は四段の腕前。
Jungule(公式サイト)
公式ブログ「笑顔の泉」