Nikkei Brasileiros! vol.26
Vol.26 Wonderful Brasilian Classic/2013 WBC Nikkei Baseballの凱旋
日伯交流100周年企画
後援=在日ブラジル大使館
協 力=AMERICAN AIRLINE
Photoraphs & Text by Mizuaki Wakahara(D-CORD)
Directed by Ryusuke Shimodate
Edit by Tomoko Komori
Camera Assistant by Yayoi Yamashita
Coordinated by Tamiko Hosokawa (BUMBA) / Erico Marmiroli
2008 年、地球の裏側ブラジルへの移民がはじまって100年の月日が流れた。今では150万人を超える日系人が暮らしている。 南半球最大都市サンパウロへ「japon」に会いに旅にでた、日系ブラジル人ポートレイト集。
3回目のWBC、A組のオープニングマッチはサンバブラジル対サムライジャパン。予選3組を首位通過した野球ブラジル代表は、初めてWBCの舞台に立つ。が、ブラジル本土ではそんなこと知ったこっちゃない! 野球のルールはもちろん、『ベイジボウ(ベースボールのポルトガル語)』の言葉の意味が何なのか誰も知らないだろうし、気にもかけないことだろう。
だから何だ!
「俺たちは人気のあるスポーツをしたい訳でもなければ、サッカーにだって興味はない。ただ、少年時代から慣れ親しんだ『野球』が最高なんだ!」と高らかに叫び、野球ブラジル代表とともに来日した奴ら、それがWonderful Brasilian Classic Teamだ。当然のことだが、応援のサンバ隊も引き連れて来ている。
「俺たちも日本で野球がしたい!」
WBC初戦を2日後に控えた2月28日、彼らはブラジル代表チームより一足先に東京ドームに降立った。野球不毛の地に、野球の種を蒔き、拾った流木を削ってバットに変えた。日系球児たちにとって、日本で野球をすることはまさにフィールド・オブ・ドリームス。一生に一度の晴れ姿を見よ!
野球は日本人移民がブラジルに入る前に米国が持ち込み、すでに存在していたが、スポーツとして広めたのは日本人移民だった。第二次世界大戦中は、敵国となった日本人が集団で集まることが禁止されていたが、終戦後の1946年に日本人移民たちがサンパウロ州でパウリスタ野球協会を発足させた。その後、1990年になってブラジル野球連盟が発足し、現在では64クラブが所属している。
小学校低学年から大学までリーグがあり、年代別の大会も行われている現在、主な競技者は伝統的に日系人で、ブラジルで野球といえば日本人のスポーツというイメージが定着している。今回のWBCブラジル代表メンバーの苗字(コンドウ、アサクラなど)を見ると、実に多くの日系人がいる。それだけでもブラジルの野球がいかに強く日系人と結びついているかが、わかるだろう。
東京ドーム2時間のレンタル料、2時間500万円。毎分41,700円。「とっとと始めようじゃないか!」。ブラジル国家を胸張って歌い上げ、世紀の1戦は幕を開けた。
「いかん! みんな緊張し過ぎだ! 浮き足だっている」。初回表、いきなりの6失点。やっとの思いで3つめのアウトを取り、ベンチに引き上げてくるが選手の表情は暗い。そこへ、応援に駆けつけたサンバ隊が背中を押す。
東京ドームにサンバが鳴り響き、Wonderful Brasilian Classic Teamの攻撃。1点を返し息を吹き返したかに思えたが、後が続かない。5点差を追う展開が続く。
確かに親善試合ではある。だが、勝たなくても楽しめればいいという雰囲気はない。ベンチの中ではポルトガル語が行き交う。互いを勇気づけ、鼓舞し合う姿が印象深い。「俺たちがいたから、今の野球ブラジル代表がいる!」という自負なのか。凡打の山に、唇を噛む選手たちの姿が僕の胸を熱くする。凱旋する気持ちで遥々やって来たのだから、これ以上スコアボードにゼロを並べたくない。自分たちの続けて来たことが実を結んだことを祝福する来日なんだから、やっぱり日本にいるほうが野球は強くなるとは言わせたくない。
「俺たちの歴史がブラジル野球の歴史!」というプライド。
一番大切なのはそういう気持ちなのだと思う。誰も野球をしない国で野球をやる。そしてそれを継続し、後世に引き継ぐ。彼らが蒔き、水を与え続けた種は今年、初めて花開いた。
高い身体能力を武器に様々なスポーツで評価され、結果を残してきたブラジル人。数十年後、いや数年後にはサムライジャパンを降すだろうか? それとも、「いやいや野球は力だけでは勝てない。勝負はもっと繊細で緻密な見えざるところに綾があるんだ」と一蹴されるか。
結局試合は時間切れ。東京ドームのスタッフさんから「これ以上延ばすと延長料金になりますよ!」と言われ夢から目覚めた。8回コールド、1対6で敗れた。あと1回あれば逆転できたのに!という空気感のなか、名残惜しくてフィールドを去ろうとする者がいないWonderful Brasilian Classic。 チーム内の数人がサッカーシューズを履いていることに気付いてしまった僕は、「ブラジルの野球が強くなるにはもう少し時間がかかるかもな......」。と心でこっそりツイートした。