Nikkei Brasileiros! vol.18
ティティ・フリーク (グラフィティ&ヨーヨー・アーティスト)
日伯交流100周年企画
後援=在日ブラジル大使館
協
力=AMERICAN AIRLINE
Photoraphs &
Text by Mizuaki Wakahara(D-CORD)
Directed by Ryusuke Shimodate
Edit by Tomoko Komori
Camera Assistant by Yayoi Yamashita
Coordinated
by Tamiko Hosokawa (BUMBA) / Erico Marmiroli
2008 年、地球の裏側ブラジルへの移民がはじまって100年の月日が流れた。今では150万人を超える日系人が暮らしている。 南半球最大都市サンパウロへ「japon」に会いに旅にでた、日系ブラジル人ポートレイト集。
エンジェルとの濃密なデートを満喫していた僕は、次の取材の約束は当然すっぽかすつもりでいたのだが、スタッフによる熱心な説得があり、渋々行くことにした。それでもエンジェルとの次のデートの約束は忘れず、そのへんは抜かり無い。コーディネイターのタミコさんは一度事務所に戻らなければならないので、Titi Freakと待ち合わせているリベルダーヂへは僕らだけで向かうことになった。それにしても、一度も会ったことのない相手を、人々でごった返しているリベルダーヂの駅前で見つけることができるのだろうか?
とタミコさんに聞くと、「大丈夫! 絶対にわかる。とにかく風変わりな奴だから!」と笑いながら言われた。半信半疑だったが、駅前で〈変わった奴〉が現れるのを待った。そしたら本当に〈変わった奴〉が現れた。人だかりの50メートルほど向こうから、缶ビールをゴクゴク飲みながらフラフラ歩いてくる。まだかなり距離がある段階で、〈変わった奴〉も僕を見つけた。やがてその男は僕の前で止まり、お互い名乗ることなく握手をした。まるで数年来の友達のように自然に。それから英語で「Titiです!」と言うから、「I know!」と答え、僕らは歩きだした。不思議なくらい初対面には思えなかった。
僕は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。なぜならTitiが半端無く素敵な男だったからだ! 待ちきれず、まず2枚シャッターをきった。リベルダーヂは彼のホームタウン、街中にある彼の作品を見せてもらう。どれも一癖も二癖もある素晴らしい作品ばかりだったがそれ以上に、ビールを片手にフラフラ歩くこの男こそ一番の作品だと僕には思えた。
サンパウロは世界でも有数のグラフィティ激戦区だ。政府公認の壁が異常なまでに多いので、アーティストはいつでも存分に活動できる。本来はそのほとんどが違法行為なので、人目を避けるために深夜に変装しながら活動するのが普通のことだと思っていたから、日中に作品に没頭するアーティストの姿を街のあちこちで見ること自体がかなり新鮮だ。ヴィラマダレーナのある地区は、ある区画全体が公認されているので、言わば街そのものが巨大なキャンバスであるし、そこは1週間もたてばかなり新しい作品が並んでいる。そういう意味では、本来のグラフィティが持つアティテュードとはだいぶ異なる情勢なのかもしれない。つまりもっと純粋な絵描きに近い気がする。
Titiは日系3世。男4人、女1人の5人兄弟の長男だ。13歳のころからブラジルの人気アニメ『TURMA DA MONICA』のイラストレーターとして仕事に携わり、その後MTV-Brasilのアニメーションを制作するようになる。そして'96年、サンパウロでのグラフティー・ムーブメントの影響のもと、巨大なミューラル(壁画)を描き始めた。グラフティアートによって新たな自身の方向性を発見したことで、他のテクニックやその取り入れ方、そして生活態度も含め、人生そのものに新たな発見があった。
そういったストリート・カルチャーからの影響は、彼の作品スタイルにおいて核となっているようで、「都市で過ごす人々の営み、感情、カオスがすべて創作へのインスピレーションだ」と語っていた。本連載Vol.8で僕はリベルダーヂをカオスの街と紹介したが、そこで生まれ育ったTitiらしいコメントだと思った。
Titiはすでに国内はもとより、ロンドン、パリ、東京、NY、マドリード、LAなど世界各国でペインティングをし、作品を描き続けている。
そして、この文章を書くにあたって最近の彼の活動を調べると、こんな記事を見つけることができた。『2011年の12月、震災被災者のための石巻の仮設住宅壁面に、住民の方々からもらったリクエストを元に描かれたグラフティアートが大きな反響を呼んだ。(詳しくは http://kenyabarra.exblog.jp/16947191/) 彼のグラフティアートのテクニックやセンスがそうさせたことはもちろんのこと、それ以外に彼のパーソナリティによって住民の皆さん達に笑顔があふれ、素晴らしい交流ができたことはいうまでもない』。「だから言ったじゃないか!!『彼こそが一番の作品だ』って!」。彼に会って僕が幸せになったのと同じ気持ちを、彼に会う誰もが感じているはずだ。だから彼は最高なんだ!! あんまり褒めすぎると後で本人に気持ち悪がられるからもう止めておこう。ただそんな風に彼が育ったのは日系2世である彼のママイの影響に違いない。僕らが撮影しているところに突如現れたTitiのママイが強烈な幸せオーラを放っていたことが今でも忘れられない。
そんな幸福を呼ぶ遺伝子はきっと4世であるジンくんに受け継がれているはずだ。じつはこの撮影は、Titiに息子が生まれた1週間後に行われている。そのことについて聞くと「今回の体験は最高だ!息子の存在はあまりに大きすぎて、今は言葉にならない。今日もここに来る前に仕事をしていたんだけど、今までと感覚が全然違うんだよ! 自分だけじゃなくて、家族みんなで描いてる感じなんだ!」。
撮影のあとはTitiの自宅の近所のBARにみんなで飲みに行った。BARのマスターはTitiを実の息子のように愛している様子だった。そこでタミコさんともあらためて合流。飲み歩きながら撮影していたため、すでにいい感じに酔っていた僕たちを見てタミコさんは「飲んでるねー。いいじゃない!」と笑った。息子の誕生をみんなで祝った。
その流れでTitiはヨーヨーを披露してくれた。彼はブラジルで最も有名なヨーヨーアーティストでもある。その姿を見て僕はある映像を思い出した。以前MTVで放送していた『Bario19』というストリートカルチャーのとんでもなく面白いプログラムがあったが、その中でもひと際印象的だったヨーヨーを操る男。それがまさにTitiだった。「だから初めて会った気がしないんだ!」。1年ほど前、世田谷の自宅のソファーに寝ころんで見ていた男が今、目の前でヨーヨーをしている。
別れ際、Titiは新たな命を授かった今の家族の姿を描いてプレゼントしてくれた。ありがとうTiti! ありがとうTitiのママイ!早くまた会いたいね。話したいことがたくさんあるんだぜ!
Titi Freak Web. http://www.tfreak.com/index.php
Titi Freak Blog. http://titifreak.blogspot.com/
Titi Freak Interview http://www.youtube.com/watch?v=hBe-7vbXAGg
■過去連載記事:
vol.1 ジュン・マツイ(タトゥーアーティスト/俳優)
vol.2
チアキ・イシイ(柔道家)
vol.3
シズオ・マツオカ(バイオエタノール研究者)
vol.4
トシヒコ・エガシラ(ざっくりと実業家)
vol.12 KIMI NI(陶芸家)
vol.13 トミエ オオタケ(芸術家)
vol.14 ヒデノリ サカオ (ミュージシャン)
vol.15 ヒデコ スズキ(デコギャラリー/ギャラリスト)
vol.16 ナミ・ワカバヤシ(ジュエリー・デザイナー)
vol.17 シンチア・タカハシ(女子ソフトボールブラジル代表選手 & エンジェル)