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Nikkei Brasileiros! vol.17

シンチア・タカハシ(女子ソフトボールブラジル代表選手 & エンジェル)

日伯交流100周年企画
後援=在日ブラジル大使館
協 力=AMERICAN AIRLINE

Photoraphs & Text by Mizuaki Wakahara(D-CORD)
Directed by Ryusuke Shimodate
Edit by Tomoko Komori

Camera Assistant by Yayoi Yamashita
Coordinated by Tamiko Hosokawa (BUMBA) / Erico Marmiroli


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2008 年、地球の裏側ブラジルへの移民がはじまって100年の月日が流れた。今では150万人を超える日系人が暮らしている。 南半球最大都市サンパウロへ「japon」に会いに旅にでた、日系ブラジル人ポートレイト集。

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「Oh! Cynthia! Eu gosta muito voce! シンチア、君は何と美しいのだろう!」


 今日はサンパウロ随一の美女アスリート、ソフトボール女子ブラジル代表のシンチア・タカハシに愛に行く。そう、まさに愛に行くのだ!
 サンパウロの中心部から車で30分ほど離れた郊外ののどかな住宅地に、シンチアの所属する会員制クラブ、NIPPON BLUE JAYSの本拠地がある。このクラブのソフトボール部に籍を置く彼女と、クラブハウスで待合せをした。
 早速、彼女と共にした夢のような時間について語りたいところだが、早る気持ちを抑えて、まずは「クラブ」という文化について少し触れよう。ブラジルはヨーロッパからの移民が多いため、彼らが持ち込んだクラブ文化が非常に根付いていて、西洋の人々のように生活の一部となっている。ブラジルで生活を始めた日系移民たちは、日本人同士が情報を共有したり、集まって集団で何かをする交流の場を求め、小さな社交場があちこちに点在するようになり、やがてヨーロッパ系ブラジル人のやり方に習い、独自のクラブへと発展させていったようである。


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 現在でも、サンパウロ州の日系人の多く住む地域には日系人が設立したクラブが全部で6つ存在する。本日訪れたNIPPON BLUE JAYSはそのうちのひとつであり、この広大な敷地内にサッカーコートがひとつもないのに対して、野球やソフトボールのためのフィールドが4面もあるというブラジルらしからぬ風景が、すべてを物語っている。当然会員のメンバーのほとんどは日系人であるため、敷地内のどこをあるいても日系人が多く、クラブハウスの食堂で流れていたのは、紛れもなく演歌だった。演歌が大音量で流れる食堂で、日本人の顔をした老若男女が皆ポルトガル語を話しながら過ごし、そこへ同席する箸を使って味噌汁をすするアフリカ系やヨーロッパ系のブラジル人の姿を見ていると、不思議な感覚にならないはずがない。僕にとって、中国歌謡やシャンソン、ブルースなどの音楽がエキゾチックに聞こえるように、演歌もブラジル人にはものすごく魅力的に響いていることだろう!


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 そして今日、魅力的と言えばシンチア以外にない。待ち合わせ場所に現れたシンチアは、あまりに眩しすぎて見えないに等しい。僕が幼少期、あの後藤久美子さんを見て目が眩んだときと同じ衝撃である。大音量で演歌が流れる食堂の、スピーカーから最も離れた席で、インタビューを始めたが、後日そのテープを聞くと、自分の声が尋常でないくらいヘロヘロであることにショックを受けた記憶がある。挙げ句の果てには、あらかじめ彼女のプロフィールを調べて、今年24歳だということを知っていたにもかかわらず、「わたし何歳に見えますか?」の問いにたいして「20歳!?」と答えている自分に仰天した。一体何を求めての答えだったのだろうか? インタビュー序盤にしてすでに頭がイカれている。
 医者である彼女のお父さんは日本人同士の間に生まれた日系2世。看護婦であるお母さんはスペイン系であり、その見事な組み合わせからエンジェルは生まれた。日系3世にあたる。ソフトボールをしていた兄の影響で8歳のころにチームに入部。現在はアマチュアリーグのトップカテゴリーでプレーし、1番ライトで活躍中だ。1番ライトと言えば『イチロー』、最も尊敬している人物だそうだ。そして2008年の北京オリンピック、伝説の女子ソフトボール優勝メンバーである染谷美佳選手は日系ブラジル2世であることから、その活躍する姿に相当良い刺激を受けたと語った。
 「彼女がユニホームに着替えたら!」もう僕は狂ってしまうに違いない。
「さぁシンチア、狂わせてくれ!! もはやこの拙い文章など必要ない。ただ彼女の姿を見てほしい......」。


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 シンチアは子供たちの育成にも力を入れており、自分の練習がないときは一番若い世代の選手の指導にもあたっているそうだ。同クラブのスター選手であるシンチアに向けられる子供たちの憧れの眼差しは、僕のそれと同様にピュアである。


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 ソフトボール専用フィールドに着くと、ウォーミングアップのためにシンチアとキャッチボールをした。彼女の気持ちの込もった球をしっかり受け止めようと気合いを入れた。そう、もうすでにゲームは始まっているのだから。


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 僕が語るのもなんだが、彼女は本気でアスリートだ。その身のこなしで、何年もソフトボールの世界で過ごしてきたことがわかる。フォームの美しさも然ることながら、プレー中の真剣な表情はまた格別に美しい。


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 美しい......美しい......美しい......。

何度そう呟いたことだろう。シンチアを見ればサカオ大先生(本連載Vol.14)のお言葉が身に沁みる。彼女のお尻なら、誰だって世界の果てまで惹かれてゆくだろう。
 僕は男として、アピールせずにはいられなかった。カメラをアシスタントに預け、「代打オレ!」と宣言し、バッターボックスに入った。彼女がイチローに憧れていることは知っている。イチローの真似なら多少できる。あとは結果を残すのみ。投手は小学生の女の子。舞台は揃っている。緊張しないはずがない。手の汗でバットのグリップがすべる。すかさずタイムをかけ、ロージンバックを手にした。ここはブラジル。相手がどう攻めて来るかはわかる由も無い。瞳を閉じ、大きく息を吐いた。心を無にするつもりだったが、シンチアの顔が焼き付いて離れない。それでも、男としてやらなければならないことがあるのだ。

 初球はボール、低めに外れた。お互い様子を見た1球だった。カウントを悪くしたくない少女は、次は外してこないだろう。振りかぶり、2球目が投じられた。

 「甘い!!!!!」。

 外角ギリギリに投じられたストレートは、僕の餌食となった。やや開き気味ではあったが、その絶妙なバットコントロールによりミートされた打球はセンター前へキレイに抜けた。

 そう、イチローのように......。

センターが捕球をもたつく間にセカンドを落とし入れようとしたが、意外に良い返球がベースカバーのショートに渡ったので、1、2塁間で急ブレーキをかけた。危うく挟まれるところであった。


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 プレッシャーに打ち勝った僕は、1塁ベース上で高々と両手を広げ、小学生のスタンディングオベーションに答えた。その背中をシンチアは見ていたに違いない。ピッチャーの少女はKOされマウンドを譲った。

 これでフィールドでの撮影は終わり、協力してくださった小学生チームに別れを告げた。あの1発は、まさにサヨナラヒットだった。シンチアはロッカールームへ向かい、ユニホームから私服に着替えて戻ってきた。


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 それからのシンチアはまるで別人だった。
 そう。あえて言うなら、僕に惚れてしまっていたのだ。

 写真家のぼくにとって、撮影以上のデートなどない。コーディネーターのタミコさんをはじめ、スタッフみんなに「悪いけど、集中したいからふたりだけにさせてくれないか?」と告げ、僕らは誰もいない公園のほうへと姿を消した。


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 ここから先はプライベートなことなので、書くことは控えさせていただく。ただ言えることは、ブラジルにはロマンスが溢れているということ。恋をせずに、この国で生きていくことなどできない。

 「ああシンチア!君こそ僕の永遠のエンジェルだ! Muito Bonita!」。

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■過去連載記事:
vol.1 ジュン・マツイ(タトゥーアーティスト/俳優)
vol.2 チアキ・イシイ(柔道家)
vol.3 シズオ・マツオカ(バイオエタノール研究者)
vol.4 トシヒコ・エガシラ(ざっくりと実業家
vol.12 KIMI NI(陶芸家)
vol.13 トミエ オオタケ(芸術家)
vol.14 ヒデノリ サカオ (ミュージシャン)
vol.15 ヒデコ スズキ(デコギャラリー/ギャラリスト)
vol.16 ナミ・ワカバヤシ(ジュエリー・デザイナー)





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