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Nikkei Brasileiros! vol.16
ナミ・ワカバヤシ(ジュエリー デザイナー)
日伯交流100周年企画
後援=在日ブラジル大使館
協
力=AMERICAN AIRLINE
Photoraphs &
Text by Mizuaki Wakahara(D-CORD)
Directed by Ryusuke Shimodate
Edit by Tomoko Komori
Camera Assistant by Yayoi Yamashita
Coordinated
by Tamiko Hosokawa (BUMBA) / Erico Marmiroli
2008 年、地球の裏側ブラジルへの移民がはじまって100年の月日が流れた。今では150万人を超える日系人が暮らしている。 南半球最大都市サンパウロへ「japon」に会いに旅にでた、日系ブラジル人ポートレイト集。
2008年10月11日
ナミ ワカバヤシ(ジュエリー・デザイナー)
http://namiwakabayashi.blogspot.com/ ミスター・サカオと別れたあと、コーディネーターはタミコさんからエリコへとバトンタッチ。今回お会いするナミ・ワカバヤシさんは、エリコの古い友人である。エリコの車で拾ってもらい、ナミさんのアトリエへと向かった。弾ける笑顔が素敵なナミさんは、大きな笑い声とともに僕らを迎え、それからも一言二言話しては大笑いするリズムを絶え間なく続ける、きわめて陽気な女性だ。アトリエのシャッターを開け、僕らを普段からジュエリー制作している部屋へと通してくれ、その高いテンションのままお話を聞かせてもらった。
ナミさんのご両親は神戸出身の日本人。ナミさんはブラジルで生まれ、日系2世にあたる。小学校1年からブラジルの現地校へ通い始めたので、それ以来日本語を使う機会はなくなり、ご両親との会話が唯一の日本語会話となっている。7年前に別れた前夫も日系3世だったため日本語はまったく話せない人だったそうだ。そのため、家庭内で話すような日常的なこと以外の話題になると、極端に言葉が出てこない。特にジュエリーへのこだわりを聞いたりすると、その繊細な感覚的な表現がまったくできず、聞いたまま解釈すると随分と大雑把なアーティストだなと誤解されかねない。
「おばあちゃんが生きてたころは、何度か日本まで会いに行きました。でもほとんどおばあちゃんの家にいたので、日本の街がどんな風だったのか具体的な印象がありません。それと、日本語を話せてもまったく読めないことが残念です。街中にあふれる日本語がひとつも理解できないのだから、何か寂しいですよ! ブラジルで日系人として生活することに何も疑問を持たなかったのに、日本に行って初めて、私はブラジル人でもなければ日本人でもないんだなぁと自覚しました。それからは、私にとって日本はルーツというよりは神秘的な存在です。私の身体に宿るミステリアスなもの。だからいつかその謎を解くために日本を旅したいと思っているんですよ!」。幼少期からの習慣で、ごはん、ふりかけ、みそ汁を毎日欠かさないナミさんであっても、ジャポンは東洋の神秘なんだなと理解した。
大学では建築を学び、'96年からジュエリーの制作をスタート。建築を勉強したからこそのこだわりで、ジュエリーの造形には最も気をつかっている。形が決まった上で、そこにアクセントとして日本的な模様なり、柄なりを添えるように加えるそうだ。
「すべて女性のために作っているのだけれど、私がつくるとどうしても大きい作品ばかりになってしまうの。だから華奢でかわいいものを求める一般的な女性からはあまり買ってもらえない。でもデリケートで小さいものはどうしてもつくれないの!」。
ナミさんは良い意味で大雑把であり、そこがチャームポイントだと気づき始めた。「ジュエリーデザイナーって、必ずしも繊細なテイストの持ち主でなくても成り立つんだな!」。そう言われてみると、デザインのデッサンも、ガスバーナーを使う手さばきも、何もかもが大雑把に見えてきた。こういうタイプの人ってたまにいるけど、気持ちがいい。
そんなとき、アトリエの前をナミさんのご近所さん御一行が横切った。これはまた大雑把なやつらだ! 類は友を呼ぶぜ! アトリエの隣のお店に預けられていた9歳になる息子、ユウくんも飛び出してきた。ユウくんはなぜか浦和レッズのユニホームを着ている。みんなまとめて撮影しよう!
パチパチ撮ったあと、僕らに人見知りしてまたお店に逃げ込んだユウくんを追いかけた。ナミさんの友人のお店にはオリエンタルなプロダクトやオブジェクトがディスプレイされている。最近ラオスから帰って来たばかりだという友人は、建築のデザインを手伝ったり、結婚式場のデコレーションをプロデュースしたり、ラオスから受けたインスピレーションを形にした作品をこの店で売ったりしている。この人もやはり大雑把な匂いがぷんぷんする。
話を聞くと、随分と大仏が好きらしい。確かに大仏ってその存在そのものが大雑把だ。それから彼女はこけしの収集家でもあるそうだ。こけしのフォルムは間違いなく大雑把だ。つまりこのお店そのものがだいぶOZPだし、ひょっとするとこの周辺一帯がOZPなのかもしれない。
ユウくんは日本語は話せないが、おじいちゃんとおばあちゃんからは日本語で話かけられているため、OZPに理解できているようだ。気づくと、自然発生的に〈かくれんぼ〉が始まっていた。この店を熟知しているユウくんに対して、僕はどれだけプレッシャーをかけられるだろうか? 息詰まる攻防が展開されたが、勝敗を分けたのはやはりユウも大雑把だったからであろう。
■過去連載記事:
vol.1 ジュン・マツイ(タトゥーアーティスト/俳優)
vol.2
チアキ・イシイ(柔道家)
vol.3
シズオ・マツオカ(バイオエタノール研究者)
vol.4
トシヒコ・エガシラ(ざっくりと実業家)
vol.12 KIMI NI(陶芸家)
vol.13 トミエ オオタケ(芸術家)
vol.14 ヒデノリ サカオ (ミュージシャン)
vol.15 ヒデコ スズキ(デコギャラリー/ギャラリスト)