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Nikkei Brasileiros!
vol.1 ジュン・マツイ(タトゥーアーティスト/俳優)
僕らはリビングに通してもらった。タトゥーの写真を始めとする彼の作品で埋め尽くされ、静かにジャズが流れている。テーブルの上ではヒマワリが気持ちよさ
そうに開け放たれた窓からの風に揺れていたが、それを見て「この花瓶倒れそう」。と思った。そんな彼の部屋で、家族のこと、日本でタトゥーを彫り始めたと
きのことなどを聞いた。
僕にはジュンさんの雰囲気があまりにも神秘的に感じられ、無性に興奮して気持ちが落ち着くまで話が耳に入らなかった。それでも『HARI』を読んでいたので、知っていたことも多く、程なくジュンさんの言葉に馴染んでいった。
彼はブラジルのヴェニスと呼ばれるレシフェで、日本人の父とブラジル人の母との間に生まれる。ローティーンの時にはプロスケーターとしてサンパウロのストリートシーンでは非常に有名な存在だった。18歳の時、いわゆる「デカセギ」として、経済状況の悪いブラジルを離れ父の故郷である日本に渡る。後に「人生でもっとも大きなインパクトを受けた出来事のひとつ」。という和彫りとの出逢いや、日本におけるタトゥーシーンの成長や発展とリンクして、タトゥーイストへの道を歩んでいくことになる。東京をベースにタトゥーアーティストとして様々な経験を積み、活動を続けてきた。ジュンさんがサンパウロへ戻ったのは2年ほど前。いろいろな要因から自分のスタイルでモノ創りができなくなってきたと感じた彼は、およそ人生の半分を過ごした日本に別れを告げ、生まれ故郷ブラジルへ帰る決断をする。
日本での生活の話も面白かったが、最近ではあまり使わなくなったためにゆっくりと感覚を取り戻すように語ってくれた日本語と同様に、日本での自分のことへの興味も心の片隅にしまっているように感じられた。それよりも現在の充実したメンタリティーへの確固たる自信や、制作途中のジュエリーという彼にとって新鮮なテーマの話題に自然と魅かれた。ジュンさんの視線は明らかに未来へ向けられていた。ブラジルでの経験も日本での経験も経たからこそ見えてくる世界観がある。
「世界というものは、すべて内面の問題だと思う」
人間という生き物は自分の内面が変われば、それによって様々な物の見方も変わってくる。そうなると当然、自分を取り囲む世界の形も変わってくる。つまり、街や環境といった外的要素が人をつくるのではなく、住む人の内的要素こそが世界をつくりだすのだと。
「正直、サンパウロが好きかと言われればそうでもない。でも、今はこの場所がとても気に入っている」
ジュンさんの家にいると、ここがサンパウロだと感じないどころか、どこにも属していない感覚を覚え、コーヒーを入れてもらうのを待っているあいだ「僕は本当にブラジルにいるのか?」と窓の外を眺めた。